新詩帖3

 

レクイエム

 

今日も亦

帰宅深夜に及ぶ

情けなきこのなりわい

人の死に絶えしこの時刻に

せめて一服の茶をたて

永遠に思いを馳せ

 

フォーレのレクイエムを聴かん

 

深重なるジュリーニの棒

天使ガブリエルの如き

キャスリーン・バトルの歌声

そは果たして人の子なるか

 

外は暗黒の闇

我は果たして悪魔の子なるか

消えてはかつ結ぶ

よこしまなる想念の数々よ

五黄土星 巳年生まれの一個の男児

いたずらに齢をかさね

ただ慙愧の涙あるのみ

 

ーああ イエズスよ

キャスリーン・バトルは神に子に訴える

 

ー救いたまえ

我は天空に昇りし父の霊に向かい

声にならぬ声で呼びかけ そして叫ぶ

 

生前に孝を尽くし得なかった父よ

然るが故に憐れなりし我に

救いの手を差しのべ給え

 

日々は闘いなり

日々は挫折と後悔のくり返しなり

やがて我も天空に昇る身なり

 

リベラ・メ

リベラ・メ

 

フォーレ:レクイエム

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(注)この作品は、九州で会社を経営していて次第に窮地に陥り追い込まれていった時期に実感をこめて書いたものである。絶体絶命のピンチの際には、遥けき父の霊に向かって、救いを求めてくり返し祈ったものだ。

 カルロ・マリア・ジュリーニは、ウィーン交響楽団を率いての来日時に一度だけ聴いた。マーラーの「交響曲第1番」が素晴らしい演奏で、あまりの美しさに陶然となった記憶がある。真摯なる人ジュリーニは今でも最も好きな指揮者の一人だ。