「最後の証人」(テレビ朝日・ドラマスペシャル)を見る

(以下の文章にはネタバレが含まれます。)

 最近は、テレビの2時間ドラマを最後まで辛抱して鑑賞することができなくなった。脚本演出とも安易なものが多く、殆ど鑑賞に堪えないからだ。

 ただ、1月24日夜の標記のテレビドラマには若干の期待があった。きちんとした原作が存在し(ただし小説は読んでいないが)、キャストには豪華かつ芸達者な俳優たちがずらりと並んでいる。

 上川隆也松下由樹が弁護士と検事役で共演し、ドラマの柱となっている。他に、倉科カナ伊武雅刀、大杉連、平田満、神保悟、藤真利子など重厚な共演陣が周りを固めている。

 

 ただし、石黒賢紺野まひる、のような重要な役者を殺人の被害者夫婦に配したこともあり、ドラマの半ばほど、美津子(紺野まひる)が末期の乳腺癌だということが明らかになった時点で、事件の真相がほぼ分かってしまった。高瀬夫婦が仕組み、美津子が命をかけて実行した復讐劇であることは見え見えとなった。予想通りに進展し、私にとって衝撃の結末とはならなかった。ただカーテンが開いていた理由は分からなかったが、この種明かしも作り物めいていて、ストーリーにとっての必然性は薄い。

 流石に上川隆也の演技は上手い。相手方の松下由樹の存在感を希薄にしてしまったほどだ。重厚で厳しいヤメ検という役作りに成功している。

 ミステリーとしては社会派でもありパズラーの要素もある。ただ、設定と進め方に少し無理がある。例えば、本作品の核心となる美津子が自刃してその出血を島津のガウンに振りかける行為は、どう見てもやや無理筋であり、また元警察官の丸山が、説得力を欠く動機で急に改心して、良心に従って自分にも警察組織にも思い切り不利になる証言をするなどは、いかにも安直で都合がよすぎる。まあ、登場人物が作者が考えた通りの分かり易い人間像で描かれているので、ある意味安心して見ることができる。

 また、背景に昔の交通事故の真相があるなどは、どこかで見たようなお馴染みの設定だ。 

 

 ところで、昨年12月に見た「凶悪」では、理解を絶する凶悪な人間が登場し、それぞれピエール瀧リリー・フランキー山田孝之が凄絶に演じていた。事実は小説よりも奇なりを地で行っている。平凡な作家の想像力ではとても現実には敵わない。

 そういう観点からは「最後の証人」は、いかにものどかなおとぎ話に見える。