『高校生からのゲーム理論』松井彰彦著(ちくまプリマー新書、'10.4.10)-隔靴掻痒?

 本書は、橘玲氏の『「読まなくてもいい本」の読書案内』のブックガイドで、定番の入門書として推奨されているもので、すぐに書店で買い求めて読了した。ゲーム理論のアウトラインを理解するのに適した書物で、大変解かりやすく、曖昧なところのない良心的な著作であると思う。 

高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)

 本書の性質上(また著者の著述の動機から考えても)、ゲーム理論の大概を示し、現実の社会でいかに役立てるべきかを考えさせる本であり、それ以上でもそれ以下でもない。 くだけたエッセイ風の文章が楽しい。

 

 ゲーム理論を要約すれば、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの大著『ゲームの理論と経済行動』(1944年出版)を出発点とする意思決定の理論であり、他の理論と根本的に違うのは、複数の人間が存在するときの意思決定を扱うことである。人々はそれぞれ目的を持って意思決定を行うが、結果は自らの決定だけでなく、他の人々がどのような意思決定を行ったかに依存して決まる。したがって、ゲーム理論では、他の人々がそれぞれの目的を達成するためにどのような意思決定してくるかを常に考えながら、自分自身の目的の達成を目指して意思決定を行わなければならない。」(武藤滋夫著『ゲーム理論入門』より。一部文章を簡潔化した。)

 

 本書では、例えば「ナッシュ均衡」理論がでてくるが、本書のみでは殆ど理解はできない。恐らく著者もそんなことは百も承知で、読者に次のステップへ進むことを促しているのであろう。多少は隔靴掻痒という趣はあるが、ゲーム理論に関心を持つための優れた手引書で、一読の価値があると思う。