「ドイツの脱原発がよくわかる本」川口マーン恵美著(草思社、'15.4.22)

ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由 住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち (講談社+α新書)

 日ごろ国内外を跋扈している「反原発」の潮流にどこかうさんくささを感じてた矢先に<日本が見習ってはいけない理由>という副題のついた本書に接し、大いにわが意を得る思いがした。

 30年以上ドイツに住んでいるという著者の本は、以前『住んでみたドイツ8勝2敗で日本の勝ち』講談社+α新書)を興味深く読み、ドイツに4年近く滞在しているわが娘にも読ませたことがある。著者は元来音楽が専門なのだが、文明事象全般に対しても卓越した洞察力と冷静な分析力を発揮していて感嘆する。今回のレポートも極めて理性的かつ真摯で十分信頼に足る。勿論右や左の俗流イデオロギーとも無縁だ。

反原発」は、「辺野古移設反対」「反捕鯨」などとともに反体制のシンボルとして、すでにヒステリックで唯我独尊的な宗教色を帯びつつある。宗教色というのは、他者の批判を許さない非寛容のイデオロギーという意味である。

 もしかして、どこかで何者(何国)かが、日本のエネルギー政策を混乱させ、日本の国力を弱めるために情報戦を仕掛けているのかも知れない。そして純朴な多くの日本人が知らずにこうした詐術に加担してしまっているのだろうか。(うがち過ぎ?) 

 かつては「60年安保」や「三里塚」などが同列にあった。

 

 原発リスクマネージメントの側面のみを強調して巨大技術にリスクゼロという不可能を求める形而上学に批判的検証を加えた上で、同時に文明の存亡に決定的に重要なエネルギー問題としての視点から科学的に考察するという極めて平衡感覚に富んだレポートとなっている。

 

 この本の肝は、”あとがき”にある次の言葉に端的に示されている。

「日本が今ドイツを真似て、脱原発という無謀な道を歩むべきではないという思いは変わらない。ドイツと日本は、似ているようで似ていない。」

 

反原発」を声高に唱える人たちのシンボルとして礼賛されるドイツの脱原発の実相がこの本でよく理解できる。物事には日なたもあれば日陰もあるのだ。

 目次を見ると、「ドイツが脱原発を決めるまでの紆余曲折」「ドイツの再エネが直面した現実」「「ドイツの脱原発を真似てはいけない理由」などがあり、特にドイツの脱原発を真似てはいけない理由として、①電力を融通し合える隣国がない②日本には自前の資源がない、の2つの重要な理由を挙げていて、極めて説得力に富む。

 そして著者は次のように述べる。「本書の狙いは、ドイツの脱原発をけなすことではない。ドイツの脱原発が失敗といいたいわけでもない。・・・私が本書に託すのは、日本に絶対にドイツの脱原発を見習わないでほしいという願いだ。なぜか?それは、ドイツと日本の置かれている状況があまりにも違うので、日本がそのままドイツの真似をすれば、必ず命取りになるからである。日本がドイツと同じことをするのは、現在のところ不可能だ。それをどうか、読者にわかってもらいたい。」

 「脱原発は急いではいけない。長いスパンで、計画的にやらなければならない。」

 

 人類文明にとって死活的に重要なファクターは安定的なエネルギーの確保である。エネルギーが欠乏すれば人間も人間が築き上げてきた文明も瞬時に滅びる。今ほど原発を含むエネルギー問題全般に関する冷静で片寄らない議論が必要なときはない。

 本書は、こうした問題について考察するための、日本人にとっての必読の書だ。