新詩帖5

 

狂う女の日記

 

狂ったのだわ、妾(あたし)

魔法の鏡が

千々に砕けて散乱するように

妾の生肝に棲む生暖かい魂蟲が

千々に裂き千切れ飛んだのだわ

 

今朝の食卓で

砂糖にたかる蟻を集め食べていると

尻の下の古畳の目を抜いて

雨後の筍がニョキニョキと

飛び出て妾をこすりまくるのよ

 

今日はなぜか昼間から闇夜で

昼飯は漆黒をすくって食べたのよ

それはすぐ消化管から全身に染みわたり

卵巣まで真暗闇に沈んだわ

 

夕闇の触手は白身を撫でくる催淫剤よ

妾、トカゲのしっぽを切り

遣ったわ、ピストンみたいに

挙句はうろこを鞣してしまったわよ

 

晩飯のおかずは鬼の目よ

大江山の男鬼、女護が島の女鬼

あとは鱈の目、魚の目、鳥目、僻目

目づくしだわぁ

 

深夜、年代物の桐箪笥の

引出しに潜む悪い老婆が暴れるの

時々にっと嗤っては

干した蓬をしゃぶる小面憎さ

 

妾、それがいまいましくって

火炙りの支度にかかろうと

家の大黒柱引っこ抜いたら

家守が噛みつき、婆あ魂消て失せたわ

 

妾、なぜか狂った血脈を降り

時間の網目をよけながら

ぬるい生理の鉢を割る丑三つ時

うす惚けて狂う書割りに失禁したわ