安息の刻
いつしか水槽がひっくりかえり
とげとげしかった私の呼吸もおさまった
かつては
水面に垢のように脂のういた
胆汁色の水槽の中で
不具な三葉虫
堕胎された悲鳴の断片(きれはし)
血のない蛭
足のもげたむかで
が泳ぎ
ひずみよどんだ暗緑色の水底からは
ぶぐんぶぐんと亜砒酸ガスが湧いては
腐った脊椎動物の肘がすぅーいとながれた
太陽はとうに発狂し ひたすらくりかえす
うがいの音とこだまとの交錯の中を
よれよれの水が吐き出され這いのびていったのだった
コオルタアルの上へ
土竜の巣のなかへ
錆びたフライパンの割れ目へ
蟻地獄の陥穽(わな)の底へ
傷だらけの溶岩のすきまへ
排気ガスのように
私はそれとなく昇天する
1962.11.11